「迷いの旅籠」で垣間見えた、人間の性(さが)のようなもの。

日本経済新聞朝刊の連載小説「迷いの旅籠」。宮部みゆき氏による同小説が、すごいことになっている。特にここ数日の展開には目が離せず、毎朝新聞を手に取ったら一面より先に、まず小説を読んでしまうほど。

 

(以下、ネタバレにご注意ください)

 

ある村に絵師がやってくる。今は誰も住んでいない離れ屋にこもり、絵を描き始める。絵師は絵を描くことでこの世とあの世をつなぎ、既に亡くなっている人達を呼び戻そうとしていた。村の風景やそこに住む人々だけでなく、既に亡くなった人達も絵に加えていく。

 

そして、道は開き、あの世にいる人達がこちら側に戻ってきた。ぼうっとしているようで覇気はない。まだ不完全ではあったが、亡くなった人達にもう一度会えるようになった。道は通じたのだ!

 

しかし、亡者が1人戻ると、こちら側にいる1人が死んだように動かなくなってしまう。戻った人も、本当に意味で生き返った訳ではない。向うが透けて見えるような状態で、ただぼうっとしている。このままではダメだということになり、村人達は離れ屋を焼き払い、あの世とこの世をつなげる道を閉じようとする。

 

その時のこと・・・。

 

愛しい妻と子を亡くしていた貫太郎は、彼らと共にいるために、あちら側に行こうとする。村人が止めても、貫太郎の心は決まっていた。そして、やはり愛しい人達が戻ってくることを願っていた絵師や一平に対して、一緒にあちら側に行く気があるか問いかける。2人は愛する人達とこの世で再び一緒に過ごすことに必死だったにも関わらず、貫太郎の問いに答えることが出来ない。動くことが出来なかったのだ。そして、貫太郎は1人であちら側に行ってしまう。まばゆい光の中へ入り込み、自ら扉を閉めて道を閉ざした。

 

一連の流れを読みながら、同じように愛する人と再会することを願いながらも、向う側に渡った貫太郎と、行くことが出来なかった絵師や一平との対比がすごい!と感じ入った。さらっと書いてあるけれど、深い人間の性(さが)みたいなものが滲み出ている気がした。愛とエゴ、そして性(さが)。色々考えながら、やっぱり宮部みゆき氏はすごい!と再確認。途中、少し展開がスローかなぁ、なんて思った時もあったけれど、ここまで読んで来て良かった。宮部先生、引き続き楽しみにしています!!!